鳩山町(埼玉県)の経済・産業概況

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鳩山町(埼玉県)の経済・産業概況 埼玉県
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鳩山町(埼玉県)の経済・産業概況

鳩山町(埼玉県比企郡)は、埼玉県南部の丘陵地に位置し、2025年8月時点の推計人口は約12,700人です。1970年代以降の住宅開発に伴い「鳩山ニュータウン」が整備され、東京都区部への通勤者が多いベッドタウンとして知られています。国勢調査(平成22年)では、埼玉県内の各市町村と比べ東京都への通勤・通学流動比率が突出しており、全体の約27.0%が東京都に通勤・通学しているとされています。このように、都心近郊の住宅地域として発展する一方で、町内には従来からの農業地域や小規模工場、商店街なども混在しています。

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農業・林業

鳩山町の農業は主に畑作が中心で、米のほか小麦・大麦といった作物も栽培されています。農林水産省統計によれば、2020~2021年度には水稲作付面積が約95~99ヘクタール、収穫量が約426~432トンとなっており、ほぼ100ヘクタール規模の稲作が続いています。麦類(小麦・大麦)の栽培も盛んで、2021年の作付面積は小麦約48ヘクタール、6条大麦約18ヘクタールでした。一方、農家数と耕作面積は減少傾向にあり、2000年代初め(平成12年)には農家数479戸、経営耕地面積328haでしたが、2020年(令和2年)には農家数335戸、耕地面積216haにまで減少しています。こうした農地・農家の減少は、農業従事者の高齢化や担い手不足によるものと考えられます。

それでも鳩山町には地域資源を活かした特産作物があり、なかでも「鳩山産黒大豆」(通称・鳩豆)は全国的にも珍しいブランドです。町内では黒大豆を原料にした加工品が多く作られ、特産品としてアピールされています。例えば、鳩山産黒大豆を練り込んだ「鳩豆うどん」は黒くて太い独特の麺でビタミン・ミネラルを豊富に含み、地元直売所などで販売されています。同様に黒大豆きなこを使った焼ドーナツも人気商品で、油で揚げないヘルシーな点が特徴です。また、鳩山産の杏(アンズ)を使った甘納豆パン「鳩山杏あんぱん」、伝統的な和菓子「鳩まんじゅう」など、多彩な特産品が生産・販売されています。農産物は町内の直売所「ちょっくま」やコミュニティ・マルシェなどで販売され、ふるさと納税返礼品にも多く登録されています。近年は燃油・肥料コストの高騰を受け、町独自に農家向け給付金制度(1件2万円)を創設して農業経営の安定を支援しています。

主な農産物・特産品

  • 米・麦類:2021年時点で水稲約95ha、小麦約48ha、6条大麦約18haを栽培。
  • 黒大豆(鳩豆)加工品:鳩山産黒大豆を使った「鳩豆うどん」や「黒大豆きなこドーナツ」など。
  • その他野菜・果物:イチゴ、ネギ、にんじんなどの野菜や杏・トマトなども一部栽培。
  • 農産物販売:2021年10月開設の直売所「上熊井農産物直売所(通称『ちょっくま』)」では、新鮮な地元野菜・果物や惣菜などを販売し、加工室で調理もできる。

製造業

鳩山町には小規模ながらものづくり企業が点在しています。金属加工・機械製造業が中心で、町内には金型・精密機械を手掛ける「鳩山製作所」や「高松鉄工」、金属部品加工の「ベストサプライ」、建設機械・空調機器の「須藤工業鳩山工場」などがあります。主要企業としては、埼玉県内でも有名な例として、日立製作所中央研究所(鳩山地区)や、衣料・雑貨店「無印良品」を展開する良品計画(無印良品)の鳩山物流センターが挙げられます。特に無印良品鳩山センターは2014年に稼働開始した大型物流施設で、年商規模の大きな投資を行い関東圏全域への物流拠点となっています。このほか、コンクリート製造の国分コンクリート、建設業の田中工業など地場大手企業の本社・工場があります。

工業統計によると、鳩山町内の製造工場数は2021年時点で32工場(従業員458人)で、製造品出荷額は約8.99億円(10千円単位で899,014)に達しています。2022年には工場数が25、従業員322人、出荷額約6.20億円に減少しており、近年はやや縮小傾向にあります。小規模工場が多く、震災や外部環境の影響による操業縮小も要因とみられます。町は工業団地こそ整備していませんが、今宿地区に約5.9haの「産業用地」を確保し、関越道「坂戸西スマートIC」から約4.8kmと交通利便も良い土地を提供しています。また、企業誘致条例を制定して土地利用を促し、インフラ整備を進めています。

商業・サービス業

鳩山町の商業はニュータウンに集中しています。かつて町内には商店街もありましたが、自動車普及後は郊外型の大型店が増え、1988年には商店数91店(卸売10・小売81)ありましたが、2014年時点で61店(卸売14・小売47)に減少しています。町内には地元スーパーとして西友「鳩山ニュータウン店」、ホームセンター系スーパーのベイシアマート「鳩山店」などがあり、生活必需品の供給源となっています。ニュータウンのタウンセンターには行政複合施設(町役場東出張所や福祉プラザ)に隣接してコミュニティ・マルシェが整備され、地域作家の雑貨や農産物を販売するほかカフェやシェアオフィスも併設されています。また、新宿や都心へアクセスする複数のバス路線が発着し、駅前商業圏への集客・利便性も確保されています。

サービス業(飲食・宿泊・医療・教育など)は、町民の生活基盤となる病院・診療所や小中学校、高校、東京電機大学鳩山キャンパス(旧埼玉短大)など教育機関、物流拠点を除いて大規模産業は少ないものの、ニュータウンの人口を背景に飲食店や宿泊施設が点在しています。2021年の商業統計では町内の商店(卸売・小売合計)が61店、従業者約354人、年間商品販売額785億円超(約7.85×10^9円)を計上しています。近年は店舗数・従業者数とも減少傾向にあるものの、一方で個人商店の高齢化が進みつつ、新規オープンの飲食店やテイクアウト店も見られます。

観光・特産品

鳩山町の観光・地域振興は特産品や自然文化資源を軸に展開されています。前述の黒大豆加工品をはじめ、町内では農産物や地元素材を使った各種加工食品が開発・販売されています。また、伝統的な観光資源として町内各地に「南比企窯跡群」(奈良~平安時代の須恵器窯跡)が残り、博物館展示や登り窯の復元などで歴史文化として保存活用が図られています。鳩山ニュータウン周辺では「鳩山町コミュニティ・マルシェ」内に地元野菜や手づくりパン・スイーツを扱う店舗があり、市街地の賑わい創出に貢献しています。

自然景観では、農村公園や石坂の森といった公園や森林が整備され、バードウォッチングや散策を楽しむ市民が多く訪れます。町南部には浅間台地を一望できる「おしゃもじ山公園」もあり、春は桜、秋は紅葉が美しい名所です。これらを活かしつつ観光開発が進められており、町では農産物と連携したグリーン・ツーリズム(農村体験観光)や歴史遺跡のガイドツアーなども試行されています。さらに、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の地球観測センターが町内に設置されており、巨大パラボラアンテナで衛星データの受信・解析を行っています。センターには展示室があり一般見学も可能で、宇宙への関心を喚起する町の特色となっています。

町内にはゴルフ場が3カ所開設されており、豊かな自然に囲まれたチャンピオンコースでプレーが楽しめます。これらゴルフコースも観光・レジャー資源の一部と位置付けられています。

雇用状況・産業構造の変遷

鳩山町の産業構造は、農業中心から徐々にサービス化・都市化が進んだ経緯があります。第二次産業(製造業・建設業)の比率は相対的に低い一方、教育・医療・公務員など第三次産業の就業者が多いのが特徴です。町の国民経済計算(国・県資料)によれば、近年の町内総生産に占める第三次産業の割合は約83~84%と高く、第一産業(農林水産業)は1~2%程度に過ぎません。すなわち、製造業・農業への依存度は低く、サービス業・流通業が経済を支えています。

高度経済成長期以降、鳩山ニュータウン建設により町の人口が急増しましたが、その後は減少・高齢化が進んでいます。農林業従事者は減少し、農家人口は2000年の約2,130人から2015年には約1,031人に半減しました。同様に商店・工場も減少傾向で、1988年の商店数91店が現在は約60店台に落ち込み、製造工場数もピーク時(2000年代)から20~30程度に縮小しています。この変化は、町外(特に東京)への通勤者増加や大都市圏との経済統合が進んだ結果と分析されます。近年は町内消費の空洞化を防ぐため、地域内経済循環を高める動きも見られ、地産地消や観光振興などに力を入れています。

企業進出・地元企業の動向

鳩山町では外部企業の進出と地元企業の活性化双方を目指しています。上述のように良品計画(無印良品)鳩山センターや日立製作所中央研究所鳩山地区など、県外資本を含む大企業の拠点設置が大きな話題となっています。これら施設は雇用面では限定的でも、地元経済への波及効果が期待され、町は積極的に誘致・協力を進めてきました。一方、地元中小企業では老舗の建設業(田中工業)や畜産加工(埼玉種畜牧場・サイボクグループ)などが堅実に事業を継続しています。近年は地元ベンチャーの育成にも注力しており、地域特産を活かした農業ベンチャーや、ICTを活用したサービス事業の起業も増えつつあります。

行政の産業振興策・支援制度

鳩山町では町内産業の振興と事業者支援を目的に、様々な施策を講じています。2019年には産業競争力強化法に基づく「鳩山町創業支援事業計画」を策定し、国の認定を受けています。これにより、町内で起業を目指す者に対し、商工会や県の創業支援機関が連携してワンストップ相談窓口や創業セミナー等を提供しています。所定の支援プログラムを受講すると、会社設立時の登録免許税軽減や金融公庫融資の優遇措置などを受けられます。また、農業分野では前述の農家支援給付金のほか、耕作放棄地の解消に向けた新規就農者支援や中山間地農業振興策が実施されています。さらに、工業・商業の活性化では、国・県の企業立地優遇制度を活用した土地・税制支援を案内し、新事業の誘致に取り組んでいます。

まとめ

以上のように、鳩山町は農業に根ざした地域資源を活かしつつ、ニュータウン化や外部企業誘致によって生活利便性を高めてきました。一方で農林水産業や伝統的な地場産業は縮小しつつあるため、町は自治体・企業・住民が協働して産業構造の再編・多様化を図り、地域経済の持続的発展を目指しています。

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